復員殺人事件/坂口安吾の未完の推理小説を高木彬光が完成させた作品

復員殺人事件

無頼派の文豪、坂口安吾が推理小説も書いていたことはご存知ですか?
坂口安吾が初めて書いた推理小説『不連続殺人事件』は、読者に謎解きを迫る本格推理小説として評価が高いのでミステリ好きの方におすすめです。

ほしにゃー

『不連続殺人事件』は江戸川乱歩に絶賛されています。

勿論いつもの安吾節も読めますので、坂口安吾は純文学しか読んだことない……という方にも新鮮だと思います。

今回ご紹介する『復員殺人事件』は、残念ながら未完の作品です。
1章~19章までは坂口安吾が執筆したものですが、その後は高木彬光(たかぎあきみつ)が完成させた共著になります。

復員(ふくいん)とは
戦時から平時に戻ること、または軍務についていた人が帰郷すること。

目次

『復員殺人事件』の基本情報

基本情報

坂口安吾が書いた19章まで/1949(昭和24)年~1950年初出。
・掲載されていた雑誌が廃刊になる。坂口安吾が続きを発表することなく1955年に亡くなったため、未完の作品となる。
高木彬光が20章以降を書き継ぐ/1957(昭和32)年~1958年初出(『樹のごときもの歩く』とタイトルを変え発表)。
・坂口と高木が書いた作品を2019年『復員殺人事件』として河出書房新社より出版。

高木彬光(たかぎあきみつ)は1920年生まれ、1995年没の推理小説家。
代表作は探偵神津恭介(かみづきょうすけ)を主人公とする『刺青殺人事件』『成吉思汗(じんぎすかん)の秘密』など。
山田風太郎らと共に「探偵小説界の戦後派五人男」と呼ばれた。

ほしにゃー

高木彬光は江戸川乱歩に『刺青殺人事件』を評価されて世に出てきた作家です。

江戸川乱歩は『刺青殺人事件』を評価しましたが、坂口安吾は『刺青殺人事件を評す』というエッセイで酷評しています(汗)
対して坂口安吾は横溝正史の才能を高く買っており、あちこちのエッセイで褒めています。

『復員殺人事件』のあらすじ

巨勢(こせ)博士再び

時代設定は1947年(昭和22年)。
主人公は『不連続殺人事件』と同じで矢代寸平という文士(小説家)です。

同様に『不連続殺人事件』に出てくる天才的な探偵、巨勢博士が探偵事務所を開いており、そこへ依頼人が来ているところから物語は始まります。

資産家、倉田家の次男安彦

依頼人は小田原の資産家、倉田家の三男でボクサーの定夫と次女美津子
戦争から帰ってきた次男の安彦は定男いわく『丹下左膳現代版』となっていて(実際は丹下左膳より損傷が激しい)本当に安彦なのかどうか判然としない。

丹下左膳(たんげさぜん)とは
林不忘の著作『丹下左膳』の主人公であり、隻眼隻手(左目と左腕がない)の剣士。
映画化され、大河内傳次郎や大友柳太郎、坂東妻三郎などの名優が演じて好評を博した。

倉田家を舞台とした事件

倉田家を舞台として、事件が起きていきます。
現在(1947年/昭和22年)だけでなく、昭和17年に起きた悲劇も関連している様子。

『不連続殺人事件』と同じく、作者である坂口安吾は読者への挑戦を「附記」として載せています。
高木彬光も優れた作家であり、坂口安吾をかなり意識して続きを書いていますが、安吾が考えていた真犯人や事件の真相がどういうものだったのかは誰にもわかりません。

ほしにゃー’s レビュー

ほしにゃー’sレビュー

「復員したけれど、本物かどうかわからない資産家の息子」を巡って殺人事件が起きるというと、横溝正史の『犬神家の一族』を思い浮かべる方も多いのではないかと思います。
『復員殺人事件』の方が古いので、横溝正史のオマージュもあるのでしょうか……

坂口安吾は推理小説を書く時、あまり現実離れした設定やトリック、世界観を好まなかったようです。
クセの強い人間関係が特徴の安吾節は健在ですが、純粋にパズルを解いていくように解決できる仕掛けを作ることに重きを置いてます。

本当の正解はわかりませんが、安吾の挑戦に乗ってみるのも一興です。

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