墨東奇譚/変わっていく東京の風景/永井荷風

墨東奇譚

エレファントカシマシのボーカル、宮本浩次さんが愛する著作と聞いて読んでみました!
『墨東奇譚』(ぼくとうきたん)は東京の街の風景を描写する文章が多い作品ですが、『墨東奇譚』の描写の方法が宮本浩次さんの作詞の仕方に影響を与えているそうです。

ほしにゃー

初めての永井荷風でしたが、なんだか懐かしい気持ちになりました。

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目次

『墨東奇譚』の基本情報

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著者名永井荷風(ながいかふう)
初出1937(昭和12)年
ページ数196頁(文庫版/紙の書籍)
メディア化1960年と1992年、2010年に映画化されているほか、舞台や朗読劇にもなっている
永井荷風とは

・1879(明治12)年生まれ、1959(昭和34)年没の小説家。
・裕福な家庭に生まれ、アメリカとフランスへ留学経験あり。
・2度妻帯するがどちらも長くは続かず、その後は数々の女性遍歴を重ねながらも独身を貫いた。
『断腸亭日乗』(だんちょうていにちじょう)と題した日記を42年間もつけ続け、日記の中に天気から読書感想、女性遍歴なども細かく書いている。日乗とは日記のこと。
・代表作『あめりか物語』『ふらんす物語』『つゆのあとさき』など。
・死後、預金通帳に現代の価値で3億円ほどの残高があった。
・親戚に能楽師の野村萬斎や、女優の高見恭子がいる。

『墨東奇譚』の概要

『墨東奇譚』は3重構造

『墨東奇譚』には作中作が出てきます。

作中作とは
作品の中に、入れ子のように組み込まれた違う作品のこと。劇でいうと劇中劇。

『墨東奇譚』の主人公である大江匡(おおえただす)は小説家であり、大江匡が書いている『失踪』という小説の主人公が種田順平です。
また物語の最後には、永井荷風自身の視点から『墨東奇譚』について論じていて、いわば作中作中作のように3重構造になっています。

ほしにゃー

ちょっと混乱しますよね

大江匡(『墨東奇譚』主人公)は設定からしてほぼほぼ永井荷風自身であり、種田順平(『失踪』主人公)も大江匡が投影されているので、3人の男たちはクローンのように似ています。

『墨東奇譚』のあらすじ

大江匡は『失踪』という小説のプロットを考えています。
『失踪』の主人公、種田順平は私立中学の英語教師で50歳過ぎ、妻子がいますが家庭が面白くなくて……

ほしにゃー

なんだかよく見聞きするタイプの主人公で、時代の違いを感じさせません。

プロットと同時に、大江匡が小説を書く時のポリシー(=永井荷風のポリシー)も語られます。

小説をつくる時、わたくしの最も興を催すのは、作中人物の生活及び事件が開展する場所の選択と、その描写である。

永井荷風著『墨東奇譚』より

このポリシーは『墨東奇譚』全編を通して貫かれていて、当時の東京の風景が美しく繊細に描かれます。

大江匡は『失踪』の舞台をどこにすべきか、東京の下町を散策していきます。
散策中に出会った大江匡とお雪との出会いは、実際に永井荷風が体験したことをなぞっていて『断腸亭日乗』に詳細なメモがあります。

ほしにゃー

『失踪』のストーリーを織り交ぜながら進んでいきます。

墨東の意味

墨東奇譚とは、隅田川東岸の物語の意味です。
隅田川は古くは「墨田川」「角田川」と書いたので、墨=隅田川ということになります。

現在の東京都墨田区には、1958(昭和31)年に売春防止法が施行されるまで「玉の井」という私娼街がありました。
私娼とは公の営業許可を得ていない娼婦のことで、2階建ての家の一階の窓に私娼がいて客引きしていたそうです。

ほしにゃー

墨東奇譚は「隅田川東岸」=「玉の井」の物語です。

ほしにゃー’s レビュー

ほしにゃー’sレビュー

『墨東奇譚』は古き良き時代の東京を偲ぶことができる作品です。
風景だけでなく、話し言葉や手紙の書き方、服飾などなど……

『墨東奇譚』は簡潔に言うと「くたびれた小説家と娼婦の話」です。
ですが下品さや猥雑さは薄く、なぜか澄んだ夜空に月を見上げるような、郷愁にも似た心持にさせる力があります。

汚泥に咲く睡蓮の、鮮やかな美しさにも似ている気がしました。

ほしにゃー

どうも宮次が主人公のイメージなんですよね……

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