国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
川端康成著『雪国』より
↑という、あまりにも有名な出だしから始まる川端康成著『雪国』。
本文を読んだことがなくても、この冒頭部分だけは知っている方も多いでしょう。
ちなみに国境の読みは『くにざかい』派と『こっきょう』派に分かれている模様です。
ほしにゃーは何も考えず『こっきょう』と読んでました……
世界を魅了した『雪国』の世界をご紹介します。
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『雪国』の基本情報
著者 | 川端康成(かわばたやすなり) |
刊行年 | 1948(昭和23)年 |
ジャンル | 純文学 |
ページ数 | 146頁(kindle) |
受賞 | ノーベル文学賞(1968年) |
『雪国』は映画・ドラマ・舞台など多くの作品があります。
2022年に放映された、高橋一生さんと奈緒さんが主演の『雪国』が最新のようです。↓
川端康成とは
- 1899(明治32)年大阪生まれ、1972(昭和47)年没
- 新感覚派の小説家、評論家。
- 東京帝国大学国文学科卒
- 代表作は『伊豆の踊子』『古都』『禽獣』など
- 1968年ノーベル文学賞を受賞(『雪国』)
- 幼いころ父母と死別、その後祖父母や姉も亡くなり親戚の世話になる
川端康成もなかなかのイケメンですが、お父様も美男子だったそうです。
『雪国』の登場人物とあらすじ
主な登場人物
島村(しまむら):主人公
東京出身・在住。妻子有り。定職には就いておらず、親の遺産で暮らしながらフランス文学などの翻訳をしたりしている。
駒子(こまこ)
島村から見ると清潔な印象の娘。『蛭の輪のようになめらかに伸び縮みする美しい唇』を持つ。
葉子(ようこ)
『悲しいほど美しい声』の持ち主で、島村が2度目に雪国を訪れた際に電車で出会う。
行男(ゆきお)
葉子の恋人で駒子の許婚(いいなずけ)らしいが、駒子は許婚ではないと否定する。
あらすじ
ざっくりいうと『金には困らないが虚無を抱える主人公が、東京から遠く離れた雪国で純粋な愛情に触れ癒される物語』です。
無為徒食(無駄に毎日を過ごしている)と自認している島村が、列車に乗って雪国へ向かうシーンから始まります。
病人を介抱しながら旅をする葉子、後に芸者となる駒子との出会い。
島村は駒子と深い仲になりますが、飽くまでも雪国の中限定での情事。
純粋で明るい駒子の情熱的な恋に癒されつつも、危うい激しさを持つ葉子にも惹かれていきます。
『雪国』の舞台はどこ?トンネルは?
『雪国』の舞台となった温泉場と雪国館
『雪国』の舞台となったのは、新潟県の湯沢町の温泉場です。
作品の中では場所や宿名は書かれていませんが、後に著者川端康成が高半旅館(現:越後湯沢温泉 雪国の宿 高半)だと書いています。
また湯沢町には、雪国館という歴史民俗資料館があります。
この雪国館には川端康成の直筆の書や愛用した品々、またヒロイン駒子のモデルとなった松栄(しょうえい)の住まいを移築したコーナーなど『雪国』の世界を満喫できそうな展示品がてんこ盛りです。
国境の長いトンネルとは
『雪国』の冒頭に出てくるトンネルは、群馬県と新潟県を通る清水トンネルです。
現在は①上越線(単線)の清水トンネル②新清水トンネルと③上越新幹線(複線)の大清水トンネルの3本が並行していますが、『雪国』で島村が通ったのは1931年開通の清水トンネルになります。
清水トンネルは開通当時、日本最長・東洋一長いトンネルとして有名でした。
『雪国』冒頭の『長いトンネル』という表現には、こういった背景があったのです。
『雪国』は完成まで13年かかっている
『雪国』は1935(昭和10)年~1948(昭和48)年の13年をかけて完成しています。
最初からラストまで決まって書き始めたのではなく、断続的に各章を続けていった形です。
志賀直哉の『暗夜行路』も完結まで長いですよね。志賀と川端はお友達です。
何故『雪国』はノーベル文学賞を受賞したのか?
日本らしさを極めた作品
川端康成の『雪国』がノーベル文学賞を受賞した理由としては、日本人の心の本質を優れた感受性で見事に表現したことが挙げられます。
的確で簡潔なのにとても繊細な描写。
雪国の物語をまるで別世界のように美しく感じるのは、川端の力量に依るものです。
古き良き日本だけでなく、これから新しく発展していこうとしている当時の空気感も感じられます。
余談ですがノーベル文学賞の対象作品としては、『雪国』だけでなく『千羽鶴』『古都』『ほくろの手紙』なども挙がっていました。
『雪国』だけでなく、他の川端作品にも触れてみたいものですね。
英訳の素晴らしさ
日本人の作品が世界で認められるためには、優れた翻訳者が必要です。
『雪国』を英訳したのはエドワード・ジョージ・サイデンステッカーというアメリカ人。
川端康成もサイデンステッカーの翻訳を賞賛しています。
サイデンステッカーは川端だけでなく、三島由紀夫や谷崎潤一郎、永井荷風などの翻訳も手掛けています。
さらに源氏物語も翻訳とか、本当に日本文学オタクいえいえ日本文学好きなんですねえー(ありがとうございます)
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『雪国』は難しい?
ミニマルな文章 = 研ぎ澄まされた無駄のなさとキレッキレの比喩
『雪国』は、ページ数的にそう長くはない物語です。
しかししばしば難しいと言われる理由は、一つにミニマル過ぎる文章にあります。
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。
川端康成著『雪国』より
有名な冒頭部分は『夜の底が白くなった』と続きます。
比喩表現のキレの良さにほしにゃーはビビりました……
The earth lay white under the night sky.
サイデンステッカー訳『Snow Country』より
サイデンステッカーも訳しにくかっただろうなあ。
英訳だと『大地は夜空の下に白く横たわっていた』となっていて、原文よりもわかりやすくなっています。
このように、文章は短いのに意味を考える・味わう時間がかかってしょうがない!
日本語の特性的に、主語や述語が省かれることってありますが『雪国』はその最たるものなのです。
また物語中に性的な関係が登場するのですが具体的な描写は殆どなく、いわゆる朝チュン(良い雰囲気で場面転換があり、翌朝のシーンに移ることで性的関係を持ったことが表現される)的な……いえ、朝チュンよりももっとわかりづらい。
行間を読む力がものすごく試されます……
性的関係だけでなく、物語全体にそういう一種の不親切な進行が多々あるので、わかりづらいと言われるのだと思います……(よく読めばわかりますが)
人間関係の曖昧な表現
物語の進行だけではないのです。
主な登場人物は4人、いえ3人(島村・駒子・葉子)しかいないというのに、相互関係が大変わかりづらい仕様となっております。
葉子が駒子をどう思っているのか、駒子が葉子をどう思っているのか、島村と葉子は……
全てにおいて情報が少なすぎる。
わざとですよね。川端先生からの読者への挑戦状かもしれません。
ですので物語に起きることが幾通りにも解釈できるし、不可解なこともあるので『わかりづらい』と言われるのでしょう。
真実は一つじゃないこともあるんですね。
時間軸
さらに『雪国』は、時間が行ったり来たりしています。
島村は作中で3回雪国を訪れています。
冒頭部分の雪国行きは2回目。しばらくすると1回目の回想が入り、その後3回目となります。
ほしにゃー’s レビュー
いろいろと見てまいりましたが、是非読んでみていただきたいおすすめの一冊です。
英訳も素晴らしいのでしょうが、日本に生まれた日本人にしか感じ取れない美しい世界観があります。
トンネルは異世界への入り口(出口)という解釈がありますが、確かにこの『雪国』は主人公島村にとって、良くも悪くも異世界の出来事なのだろうなと思わせる浮遊感があります。
現代の私たちも持っている『物質的なものでは満たされない苦悩・虚無感』を島村がどう感じ、雪国でどう変わっていくのかをあなたも体験してみませんか?