シャーロック・ホームズシリーズ初の短編集『シャーロック・ホームズの冒険』(The Adventures of Sherlock Holmes)をご紹介します。
この『シャーロック・ホームズの冒険』で人気に火が付いたというのも納得の面白さ。
有名な作品もてんこ盛りです!
出版順に読みたい方にはシリーズ1作目『緋色の研究』から読むことをおすすめしますが、手っ取り早くシャーロック・ホームズの面白さを体験したい!という方はこの『シャーロック・ホームズの冒険』がイチオシです。
『シャーロック・ホームズの冒険』の基本情報
著者 | サー・アーサー・コナン・ドイル |
初出 | 1892(明治25)年 |
ジャンル | 推理小説(短編集) |
作品数 | 12 |
ページ数 | 455頁(kindle版) |
シリーズ中 | 3冊目 |
前作 | 四つの署名(長編) |
次作 | シャーロック・ホームズの思い出(短編集) |
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『シャーロック・ホームズの冒険』の簡単なあらすじと見どころ
12の短編について、ざっくり中身を見ていきます。
タイトルについては、角川文庫石田訳/新潮社延原訳(原題)としています。
なお収録作品については角川文庫を基準にしており、新潮社版では『技師の親指』『緑柱石の宝冠』が『シャーロック・ホームズの叡智』に収録されています。
ボヘミア王のスキャンダル/ボヘミアの醜聞(A Scandal in Bohemia)
56ある短編作品の1作目を飾るにふさわしい『ボヘミア王のスキャンダル』は、依頼人がやんごとなき人物(タイトルでネタバレしてる感)。
ホームズの探偵としての名声がロンドンだけでなく、広範囲に高まっている証左です。
女性嫌いのホームズが唯一意識したアイリーン・アドラー登場です。
シャーロック・ホームズシリーズを原作としたドラマや映画には十中八九出てくるので要チェケラ。
アイリーン・アドラーは原作の『花婿失踪事件』『青い紅玉(蒼炎石)』『最後の挨拶』で言及されます。
名探偵コナンに出てくる『灰原哀』は、このアイリーン・アドラーにちなんで名づけられています。
赤毛連盟/赤毛組合(The Red-Headed League)
ロンドン在住、赤毛の成人男性限定で、楽して稼げる美味しい話!
という怪しさ満載のもうけ話に巻き込まれた、ジェイベズ・ウィルスンの事件。
今も昔も、うまい話には裏があるんですよね……
赤毛連盟が初めて日本で訳されるにあたり、赤毛の持つイメージが日本人にはわかりづらいという理由で『禿頭倶楽部』(水田南陽翻訳)になっていた事実をご存知ですか(なんという無理筋)
モンゴメリの小説『赤毛のアン』やジュール・ルナールの小説『にんじん』にも出てきますが、赤い髪は差別の対象となった時代があるようです。
↑この『赤毛のアン』の翻訳は、朝ドラ『花子とアン』のモデルとなった村岡花子さんの翻訳です。
ほしにゃーの伯母がよく読んでましたわ……
ルナールの『にんじん』はほしにゃーが子どもの頃読んだのですが、主人公が家族(特に母親)から蔑称で呼ばれていることにびっくりした思い出があります。
『赤毛のアン』も『にんじん』も家族の愛を描いた作品ですが、個人的には中学生以上くらいの方におすすめです。
花婿の正体/花婿失踪事件(A Case Of Identity)
タイトルでだいたいわかっちゃうという出落ち感が否めない作品。
ボスコム谷の惨劇/ボスコム峡谷の惨劇(The Boscombe Valley Myster)
異国での過去の出来事から起こった事件、というシャーロック・ホームズシリーズの長編でよくあるタイプの作り。
父親殺しの嫌疑をかけれられたジェームズ・マッカーシーを巡る推理。
きてくれてうれしいよ、ワトスン。信頼できる人間がそばにいるのといないのじゃ大ちがいだからね。
コナン・ドイル著『シャーロック・ホームズの冒険』より
この作品の頃はワトスンが結婚してベーカー街221Bを出ているのですが、友人らしい人がほぼいないホームズの漏らしたこのセリフは尊い。
五つのオレンジの種/オレンジの種五つ(The Five Orange Pips)
いや、四回は失敗してますよ。三回は男に、一回は女にしてやられました。
コナン・ドイル著『五つのオレンジの種』より
ホームズといえば天才的な観察眼と豊富な知識、正確な推理力でパッパと事件を解決するイメージだしほぼそうなんですが、『五つのオレンジの種』において↑依頼人にこれまで失敗もあったことを述べています。というかこれフラグですよね。
「一回は女に」と言われてピンときたあなたは、もうホームズ通です。
K.K.K.という団体が出てきますので、簡単にご紹介します。
K.K.K.(クー・クラックス・クラン)
アメリカ発祥の白人至上主義団体。時期によって主義主張に差異はあるが、暴力的傾向が強かったため1871年にテロリスト集団として指定されたことがある。
『五つのオレンジの種』によって世界的に有名になった。
唇のねじれた男(The Man with the Twisted Lip)
ワトスンの妻メアリーの友人、ケート・ホイットニーが依頼主。
行方不明の夫を探してほしいとの依頼です。
アヘン窟(あへんくつ)という場所が重要になってきますが、アヘン窟って聞きなれない言葉ですよね。
アヘン窟とは
19世紀、世界各地にあったアヘン販売・喫煙場所のこと。
ロンドンではイーストエンドのアヘン窟が有名だが、実情より誇張されている部分もある。
ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』にもアヘン窟が登場します。
青いガーネット/青い紅玉(The Adventure of the Blue Carbuncle)
ガチョウのお腹にあった青いガーネットが事件の発端という動物虐待のお話(?)。
クリスマス(から二日目)らしいといえばらしい小道具です。
まだらのひも/まだらの紐(The Adventure of the Speckled Band)
作者であるコナン・ドイルが「短編の中で一番」と位置付けた作品。
依頼人はヘレン・ストーナー。亡くなった母の財産があり、結婚すれば遺産を受け取ることができる。
女性の地位が低かったためでしょうか……
ヘレンには双子の姉がいましたが、結婚が決まった頃「まだらの紐」という謎の言葉を残して亡くなっています。
ワトスンの最初の妻疑惑
依頼人ヘレン・ストーナーは、ワトスンの最初の妻ではないかという説があります。
技師の親指(The Adventure of the Engineer’s Thumb)
上手い話には裏があるその2。
ワトスンの診療所に親指を切断された水力技師、ヴィクター・ハザリーがやってきます。
破格の報酬、矛盾のある依頼にはご注意を!
独身の貴族(The Adventure of the Noble Bachelor)
別訳『花嫁失踪事件』。あっもう出落ち感が(デジャブ)
『花婿失踪事件』より綺麗な結末ではありますが……
エメラルドの宝冠/緑柱石の宝冠(The Adventure of the Beryl Coronet)
依頼人は、ロンドンで2番目に大きな銀行の頭取。
とある高貴な人から担保として預かった緑柱石の宝冠の盗難事件犯の真相解明と、なくなってしまった緑柱石を取り戻してほしいと依頼します。
宝冠の持ち主は、作中ではぼかされていますが当時の英国皇太子エドワード7世がモデルだと言われています。
エドワード7世(1841~1910)
1902年に日本と結ばれた日英同盟はこのエドワード7世統治下。
母親のヴィクトリア女王からは無能扱いされていて60年間も”皇太子”でした。次の王は第2王子だったジョージ5世。
女性関係が派手でしたが、各国との連携を強固にしたことからピースメーカーとも呼ばれています。
ちなみに皇太子期間最長記録はチャールズ皇太子(ウェールズ公チャールズ)が更新中です。2021年現在で63年。
ぶな屋敷(The Adventure of the Copper Beeches)
家庭教師バイオレット・ハンターが依頼人。この事件も「うまい話には裏がある」系です。
住み込みでの家庭教師として好待遇での勤め先が見つかったものの、奇妙な条件に戸惑った末の相談。
『ぶな屋敷』のアイデアはコナン・ドイルの母メアリーが思いついたものだそうです。
昔ながらの延原謙訳がお好きな方はこちら↓の新潮社版をどうぞ。