坂口安吾(さかぐちあんご)の代表作『堕落論(だらくろん)』をご紹介します。
イメージ的にてっきり「みんなで自堕落に生きようぜ」みたいなエッセイかと誤解してました(汗)
↓この表紙のイラストもなんか自堕落な感じですよね?(同意を求めるな)
この角川文庫の『堕落論』は『堕落論』の他に、坂口安吾の12のエッセイも収録されている上お安くて、お得感があります。
『堕落論』は著作権が切れていますのでkindleで無料で読むこともできます。
『堕落論』の基本情報
・1946年(昭和21年)初出。
・坂口安吾の代表作/kindle版では13ページ。
・坂口安吾は1906(明治39)年生まれ、1955(昭和30年)没の小説家/評論家。
・坂口安吾は太宰治や織田作之助、檀一雄らと同じ無頼派(ぶらいは)に分類される。
『堕落論』の概要
美しいものを美しいままにする美学
堕落論はエッセイ/評論で、第二次世界大戦で敗戦した当時の日本人の心の持ちよう・在り方を説いたものです。
半年のうちに世相は変わった。
坂口安吾著『堕落論』より
日本において第二次世界大戦は1945年(昭和20年)8月15日に終結したというのが一般的な認識ですので、坂口安吾が『堕落論』を書いたのは1946年(昭和21年)2月頃でしょうか。
(『堕落論』発表は1946年4月です)
世界的には、第二次世界大戦終結は1945年9月初旬頃です。
特攻隊の生き残った若者たちは闇市(非合法のうちに品物の売買を行う場所)で働き、戦争未亡人となった貞淑な妻たちも新しい恋を始める日は遠くないだろう……と、敗戦後の日本の状況が提示されます。
戦争中は「美しいもの・尊いもの」の象徴であった人々が、戦後いわば「堕落」していると説明しているんですね。
「堕落」という言葉の意味合いがこのエッセイの鍵になっています。
坂口は戦争中と変わってしまった彼らを責めるのではなく、人間ならそうなるのが当たり前であると肯定しています。
「美しいものを美しいままにしておきたい」という心情もわかるけれども、それは同時に残酷でありエゴでもある。
例として挙げられた『四十七士』の顛末に幕府側の意図が書かれているのですが、個人的に「そういうことだったの!?」と驚きました。
四十七士とは
18世紀初頭(元禄14年)、江戸城松の廊下で刃傷沙汰を起こし切腹となった播磨赤穂藩藩主、浅野内匠頭長矩(あさのたくみのかみながのり)の仇討ちをした赤穂浪士(あこうろうし)47名のこと。
人間の弱さに対する防壁
人の心は弱い。
ゆえに、武士道や仇討ちの法則があり、天皇制が存在してきたのだと坂口は言います。
生死の境が薄かった戦時中と戦後の違いー生きよ堕ちよ。
いつどうなるか誰にもわからない、運命に従うしかないという「偉大な破壊」に美しさを感じる坂口。
疎開せず敢えて東京に残った坂口の心境は、著作『白痴』(はくち)の中にも見ることができます。
生きよ堕ちよ、その正当な手順の外に、真に人間を救い得る近道が有りうるだろうか。
坂口安吾『堕落論』より
「美しいまま」生きるのではなく、人間らしく生きること=堕落とし、新しい価値観に生きよと坂口は提案しているのです。
ほしにゃー’s レビュー
タイトル詐欺ですよね……(まだ言うか)
『堕落論』はそれまで信じてきた・心の拠り所であったものがあっという間に崩れてしまった日本人に向けて書かれていますが、現代の私たちの心にも刺さるテーマです。
戦争中と違い、現在の私たちには「自由」があります。
何を信じ、何に価値を置いて生きるのも自由(人の道に外れることと犯罪は駄目ですが)。
あなたはこの自由と、どう向き合っていますか?
(坂口っぽく言うと「お前はこの自由をどう生かすつもりだ?」でしょうか)
と問われている気がしてなりません。