伊坂幸太郎作品の中でも人気が高い『グラスホッパー』をご紹介します。
殺し屋シリーズと銘打ってあるので「なんか殺伐としてそう」と思われるかも知れません。
しかし登場人物それぞれのキャラが立っていて、残酷なのにおかしみもあって、推理小説としての面白さもありという不思議なストーリー。
ツイッターで「名刺代わりの小説10選」の一つとして、よく挙げられる作品です。
『グラスホッパー』の基本情報
『グラスホッパー』は2004年角川書店より出版(文庫は2007年)/345ページ(媒体によって変動します)
・殺し屋シリーズの1作目であり、『グラスホッパー』→『マリアビートル』→『AX アックス』と続く。
伊坂幸太郎(いさかこうたろう)は1971年生まれ、仙台市在住の小説家。『アヒルと鴨のコインロッカー』で第25回吉川英治文学新人賞を獲るなど多くの文学賞を獲得している人気作家。
『グラスホッパー』は井田ヒロトによってマンガ化されています。
井田ヒロトは『お前はまだグンマを知らない』『東大を出たけれど 麻雀に憑かれた男』などで有名な漫画家ですね。
また、『グラスホッパー』は生田斗真、浅野忠信、山田涼介など豪華な出演陣により2015年に映画化されています。
監督は『脳男』『はやぶさ』『星守る犬』などを手がけた瀧本智行です。
『グラスホッパー』の概要
『グラスホッパー』のあらすじ
殺し屋シリーズという名の通り、殺し屋が数人登場します。
主人公の鈴木は元中学校の数学教師で、「オヒトヨシ」な男(殺し屋ではない)。
鈴木は一般人ですが、妻を殺された復讐を果たすために反社会的勢力「フロイライン」(令嬢)という組織に潜入します。
組織もバカではないので、鈴木が本当に組織に忠実かどうかのお試し期間がありました。
そして組織に正式に入る最後の試練のシーンで、鈴木の復讐相手が目の前で……
3人の殺し屋が登場し、ストーリーが複雑になっていきます。
【殺し屋たち】
鯨(くじら)……身長190cm/体重90kg/殺し屋稼業15年間目/ドストエフスキー『罪と罰』しか読まない/殺したい相手を「自殺」させる殺し屋/殺した相手が亡霊として見える
蝉(せみ)……茶髪で得物はナイフ/身体能力高め/映画好き/ジャック・クリスピン(架空のアーティスト)の歌詞にある名言ばかり言う
槿(本来は「むくげ」だが作中では「あさがお」と読む)……痩身で30代半ば/後ろから押して相手を殺す「押し屋」
実はこの3人の他にも殺し屋がいるのですが、秘密にしておきます。
始めは繋がりのなかった殺し屋たちと鈴木ですが、それぞれの事情により否応なく巻き込まれていくのでした。
『グラスホッパー』とは
グラスホッパーはバッタのことです。
作中ではその中でもトノサマバッタを指しており、作品全体を表す象徴的な意味を持っています。
ほしにゃー’s レビュー
通常とは異なる世界に読者を引き込む場合、読者に近い一般的な価値観を持つキャラクターを主人公にすることが多いですよね。
『グラスホッパー』の主人公鈴木も、名字からして読者たちに馴染みのあるもので物語に入りやすい『どこにでもいそうな』人物です。
殺し屋たちの『仕事』の描写はなかなか凄惨ではあるのですが、あまりジットリした感じはない気がします。
また『悪い人』であるはずの殺し屋たちですが、だんだんと魅力的に思えてくるのが伊坂マジックでしょうか。
ほしにゃー的には、槿と書いてあさがおと読む殺し屋が好きかな。
また大人たちの命のやり取りとは対照的に、子供たちの無邪気な雰囲気がこの『グラスホッパー』の印象を救いのあるものにしています。
伊坂作品、特に殺し屋シリーズはハードボイルドな展開ではあるのです。
しかし『濃い影』に対して必ず『光』があり、『人間って社会って本来こんな酷いもんだよね』という諦観に対して『でも愛情や親切は捨ててはいけない、報われる』と提示してくれるところに清涼感があるのかも知れません。
槿(あさがお)のキャラは好きだけど、道路の端にいると「押し屋」に押されそうで怖い……
『グラスホッパー』の続きというか殺し屋シリーズ2作目になる『マリアビートル』についての記事もありますので、よそりければどうぞ。