『雪国』でノーベル文学賞を受賞した川端康成ですが、今回ご紹介する『伊豆の踊子(いずのおどりこ)』も有名な短編小説です。
英訳版では『The Dancing Girl of Izu』(ザ ダンシングガール オブ イズ)
……な、なんか思ってたんと違いますが、とにかくLet’s find out(^^)/(調べてみましょう)!
『伊豆の踊子』の基本情報
著者 | 川端康成(かわばたやすなり) |
ジャンル | 純文学 |
初出 | 1926(大正15)年 |
ページ数 | 211頁(kindle) |
刊行する際に校正したのは『檸檬』で有名な梶井基次郎!
ジョジョの奇妙な冒険の作者、荒木先生の手によるいまだかつてない踊子表紙のkindle版はこちら↓
※しかしほしにゃーのKindle版表紙は紙の書籍版でした……なぜだ。期待(?)したのに。
まさしくDancing Girl……
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『伊豆の踊子』のあらすじ(ネタバレなし)
主人公は『私』
一高の生徒である『私』は、自分の性質に悩み伊豆へ旅に出ます。
旅芸人の一座との出会い
道中で気の良い旅芸人の一座に出会った『私』は、一座にいる踊子『薫』に心惹かれます。
一座との旅の中で『私』の心は癒されていくのです。
作品の背景/一人旅と手痛い失恋
『伊豆の踊子』が執筆されるまでの経緯をまとめてみました。
川端は中学時代でも寮生活を経験していました。
第一高等学校(一高)の寮生活は中学時代と違っていて嫌だった、と著作『湯ヶ島の思ひ出』に書いています。
川端は幼いころから肉親を次々に亡くしていて、孤独や苦悩が強かったようです。
中学時代には心許せる相手がいたのですが、一高の寮生活には馴染めませんでした。
1918年10月30日~11月7日の約8日間、川端は修善寺→下田街道→湯ヶ島と旅をします。
この時に後の『伊豆の踊子』のモデルとなる旅芸人たちと出会います。
旅で心を癒された川端は、一高の寮生活に馴染んでいきます。よかった。
伊豆旅行がよほど良かったのか、以後伊豆へ頻繁に逗留しています。
一高の3年生(20歳)だった川端は、カフェの女給だった伊藤初代(いとうはつよ)に恋をします。
奥手だった川端の恋が実るまでも、なかなかにドラマチック(友人の三明くんがナイスアシスト)。
婚約まで漕ぎつけますが、運命の悪戯としか言いようのない事情によって破局してしまうのです。
伊藤初代との恋に傷ついた川端は、22歳の時『湯ヶ島の思ひ出』を執筆します。
これは中学時代自分を慕ってくれた少年、清野(仮名)や伊豆旅行で会った踊子との美しい思い出によって、自分を慰めるためと言われています。
『湯ヶ島の思ひ出』は『伊豆の踊子』の原型となります。
1926年、19歳の時に経験した伊豆旅行から8年後に『伊豆の踊子』が発表されました。
初代さんとのことはなかなかの胸糞案件なのですが、初代さんの存在は後の川端文学に大きな意味を持っていきます。※初代さんも川端青年も悪くないです※
観光地めぐり/『私』=川端青年が辿った旅路
『私』・川端青年が通っていた一高は東京都にありましたので、伊豆への旅には東京駅から出発しています。
現在だと東京~修善寺駅は2、3時間で到着します。
『私』と踊子が初めて出会った(というか『私』が見ていた)場所が湯川橋。
『私』が止まった宿は、湯ヶ島温泉 湯本館。
リアルでは、川端がこの湯本館に泊まって『伊豆の踊子』の基となる『湯ヶ島の思ひ出』を執筆しました。
川端は湯本館がお気に入りで、何度も訪れて長逗留したりしています。川端が泊まっていたお部屋も保存されていますよ!
『伊豆の踊子』の冒頭部分は、この天城峠のシーンになります。
『踊子歩道』と名付けられた散策コースの起点は浄蓮の滝。
浄蓮の滝バス停近くに、伊豆の踊子像が立っています。
浄蓮の滝・天城峠というと、石川さゆりさんの『天城越え』を思い出しますねー(^^
『私』と踊子が初めて会話を交わす峠の茶屋は、現在はありません。
峠の茶屋を出た『私』と旅芸人の一座はトンネルを通ります。
このトンネルは旧天城トンネル(天城山隧道/あまぎさんずいどう)で、何度も映画化された『伊豆の踊子』にもよく登場します。
『私』が泊まったのは、湯ヶ野温泉の福田屋さんです。
明治12年創業の老舗旅館、福田屋さんは現在も宿泊できますよ。
川端康成だけでなく、太宰治や井伏鱒二、三好達治なども投宿したお宿になります。
旅芸人の一座は甲州屋へ、『私』は山田旅館に泊まります。
甲州屋は移転し、Guest House甲州屋として営業しているようです。
『私』は下田港から船に乗り、東京へと帰っていきます。
『私』が通ったであろう道の近くには、小説ゆかりの像や碑が多数あります。
伊豆へお立ち寄りの際は『伊豆の踊子』関連のものもチェックすると楽しそうですね。
ほしにゃー’s レビュー
川端康成の自伝的小説『伊豆の踊子』は、悩み多き青年のカタルシスを描いた小説です。
ノーベル文学賞を受賞した『雪国』、『伊豆の踊子』と、老年男性が主人公の『山の音』には無垢な心・愛情による魂の救済が共通しています。
また現実世界においての清野少年・伊藤初代の件も踏まえると、川端康成の無垢さへの憧れや慕情は川端文学の根幹ともいえるでしょう。
文章自体も簡潔で清々しく、また美しい伊豆の風景もあいまって、瑞々しい青年の感性を楽しむことができます。
練りに練られた、センスキレッキレの文章が魅力の『雪国』もおすすめですが、若々しく無垢さがむきだしの『伊豆の踊子』も是非お手に取ってみられませんか?