火星に住むつもりかい?/伊坂幸太郎ワールド全開のディストピア

火星に住むつもりかい?

伊坂幸太郎『火星に住むつもりかい?』(LIFE ON MARS?)をご紹介します。

紙の本派のあなたはこちら↓をどうぞ。

目次

『火星に住むつもりかい?』の基本情報

基本情報

・2015年書きおろしの形で出版された(kindle版410ページ)。
・作者である伊坂幸太郎が住んでいる宮城県仙台市が舞台。
・伊坂幸太郎は1971年生まれ、東北大学法学部卒。システムエンジニア→作家へ

『火星に住むつもりかい?』の概要

『火星に住むつもりかい?』のあらすじ(ネタバレなし)

舞台は日本ですが、伊坂幸太郎が得意とする『IF』の世界の日本です。
『ゴールデンスランバー』や『モダンタイムス』『魔王』の系統で、今回は警察の中に「平和警察」という機関がある日本。
「平和警察」は戦前日本にあった特高のイメージのようです。

特高(とっこう)とは
1911(明治44)年~1945(昭和20)年に存在した警察機関。特別高等警察のこと。
政治犯・過激思想犯を取り締まる働きをしていたが、『蟹工船』で知られる作家の小林多喜二を尋問の末、死亡させるなどの過酷なやり方で恐れられた。

『火星に住むつもりかい?』の日本では「安全地区」という地区が巡回制で決められ、「安全地区」に定められた県では4か月に一度公開処刑(!)が実施されます。

ほしにゃー

もうディストピアな匂いがプンプンしてきましたね……

ムナクソです。こんな日本怖すぎる。
人間の持つ残酷さやフェイクニュースに踊らされる愚かさ、思考停止がもたらす恐ろしさをこれでもか!これでもか!と剛速球で投げつけてくるので、前半は胸糞警報発令です。

ほしにゃー

この容赦のなさが伊坂ワールド。

あまりの醜い世界に思わず飛ばし読みしてしまいそうになりますが、このディストピア表現満載の中にたくさんの伏線が散りばめられているのでそうもいかず。
途中からは種明かし的なストーリーになり、伏線が綺麗に回収されていく気持ちよさと共に物語の終焉に向かいます。

『火星に住むつもりかい?』というタイトル

『火星に住むつもりかい?』というタイトルは英国のミュージシャン、デビッド・ボウイの楽曲『Life on Mars?』からつけられています。
『Life on Mars?』は1971年にリリースされたアルバム『Hunky Dory』に収録されており、ボウイの代表作と言われる『ジギー・スターダスト』(The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars)とほぼ同時期に作られたものです。

ほしにゃー

どちらのアルバムも火星がポイントですね

ボウイの『Life on Mars?』は「火星に生き物はいるのか?」という意味ですが、伊坂幸太郎はタイトルのように『火星に住むつもりかい?』の意味で誤用しています(と本人が書いています)。
「火星」がタイトルに入ると一気にSF小説感が出ますよね(個人的意見)。

ほしにゃー’s レビュー

ほしにゃー’sレビュー

伊坂幸太郎が描くディストピアは「日本がこうなったら怖いけど、100%こうならないとは言えない」ところが本当に怖い。
今回の『火星に住むつもりかい?』は正義とは何かを問う作品であり、集団となった人間の恐ろしさに警鐘を鳴らすという意味で、ほかの伊坂作品と共通しています。

悪だと意識せず悪に加担する非情さ、よく情報を精査せず、誰かの思惑通りに信じて流されるいい加減さ。
誰もが「自分は大丈夫」と言い切れない人間の弱さや曖昧さに、鋭くメスを入れて抉り出してくる伊坂節は健在です。

しかし暗く絶望感に満ちた世界を描きながらも、人の持つ善い心・美しく強い心への信頼も思い出させてくれるのが伊坂幸太郎の伊坂幸太郎たる所以です。

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