シャーロック・ホームズシリーズの4冊目『シャーロック・ホームズの回想(思い出)』をご紹介します。
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『シャーロック・ホームズの回想(思い出)』の基本情報
著者 | サー・アーサー・コナン・ドイル |
初出 | 1893(明治26)年 |
ジャンル | 推理小説(短編集) |
作品数 | 11(12) |
ページ数 | 400頁(紙の書籍版) |
シリーズ中 | 4冊目(短編集の中では2冊目) |
前作 | シャーロック・ホームズの冒険(短編集) |
次作 | バスカヴィル家の犬(長編) |
『シャーロック・ホームズの回想(思い出)の簡単なあらすじと見どころ
12の短編について、ざっくり中身を見ていきます。
タイトルについては、角川文庫駒月訳/新潮社延原訳(原題)としています。和訳が同じ場合は一つです。
なお収録作品は角川文庫を基準にしており、新潮社版では『ライゲートの大地主』が『シャーロック・ホームズの叡智』に収録されています。
シルヴァー・ブレイズ/白銀号事件(Silver Blaze)
競馬にまつわる事件です。
ウェセックス・カップにおける本命馬、シルヴァー・ブレイズがレース前に姿を消し、シルヴァー・ブレイズの調教師(ジョン・ストレイカー)が殺害されます。
今回はグレゴリー警部からの依頼です。
事件の舞台となったのは英国デボン州のダートムア(Dartmoor)で、シャーロック・ホームズシリーズの長編『バスカヴィル家の犬』の舞台でもあります。
ムア(ムーア)とは湿原のことで、ダートムア国立公園は観光スポットになっています。
著者コナン・ドイルは、実は競馬には詳しくなかったそうです。
『シルヴァー・ブレイズ』が発表された時には、競馬についてのいろいろな誤りを指摘されたのですが、どうして書く前に調べなかったんでしょうねえ……意外と適当(笑)
現代版シャーロック・ホームズのドラマ『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』のシーズン2エピソード7『華麗なる依頼人』はこの『シルヴァー・ブレイズ』をベースにしています。
ボール箱(The Cardboard Box)
猟奇的な事件。スーザン・クッシングという女性の家に、差出人不明の小包が届きます。
中には粗塩が詰められ、切り取られたばかりの人間の耳2つが入れられていました。
今回の依頼はイタチ顔のレストレード警部です。
『ボール箱』は当初、”倫理的でない内容”とコナン・ドイル自身が削除した経緯があります。
そのため出版社によって『ボール箱』が『シャーロック・ホームズの回想(思い出)』に入っていない場合もあるのでご注意ください。
黄色い顔(The Yellow Face)
ノーバリ在住のグラント・マンローという紳士からの依頼で、最近引っ越してきた隣家について調べてほしいという依頼です。
ホームズの失敗が書かれた珍しい作品。
『五つのオレンジの種』で、ホームズは4回の推理の失敗を告白しています。
ねえ、ワトスン。もし、この先、僕が自分の力を過信したり、事件に対して相当の骨折りを惜しんだりするようなことがあったら、こっそり僕の耳に『ノーバリ』と囁いてくれたまえ。そうしてくれると非常に有難い
コナン・ドイル著『黄色い顔』より
自己評価がめちゃくちゃ高いホームズです(事実でもあるけど)が、たまに失敗もしてもらえると人間味が出ますよね。
株式仲買店員(The Stockbroker’s Clerk)
ワトスンが新婚。新しく医院を開業したこともあってホームズと3か月ほど会っていなかったのですが、ある日突然ワトスンの新居にホームズが訪れます。
訪問の理由がめっちゃ可愛いんですけど!
訪問の理由1:ワトスン妻のご機嫌伺い
訪問の理由2:ワトスンが自分との捜査に興味を失ってないか確かめに
ホームズ、友達少ないっていうかいないもんね……新婚はめでたいけど俺(との捜査)も忘れんなよってことですかね。いいぞもっとやれ。
ワトスンが一緒に捜査旅行に出かけることを快諾した後、ワトスンの現状を観察・推理しちゃうのも可愛い。
事件の舞台はバーミンガム、内容的にはうまい話には裏がある系です。。
グロリア・スコット号/グロリア・スコット号事件(The Gloria Scott)
ホームズの大学時代が語られます。ホームズ、ワトスン以外にも友達おったんやな……
大学時代の唯一の友人ヴィクター・トレヴァーの実家に遊びに行ったホームズは、判事でもあるヴィクターの父について観察・推理を披露しますがその後問題が起きます。
短編ですが、長編のような造りになっています。
グロリア・スコット号とは帆船の名前です。馬も帆船も、〇〇号という呼び方というのは不思議ですよね。
それとヴィクター父は日本に行ったことがあり、日本製のタンスまで所有しています。桐箪笥かしら?
マスグレイヴ家の儀式書/マスグレーヴ家の儀式(The Musgrave Ritual)
ワトスン目線で、ホームズの生活習慣が語られます。乱れた部屋の描写ついでに、ホームズが
家の壁に拳銃でV・Rという文字を撃った
というエピソードも紹介されますが、このくだりはBBCシャーロックやガイ・リッチー監督の映画『シャーロック・ホームズ シャドウゲーム』でも出てきますね(BBC版はちょっとひねってある)。
V・Rとはvictoria regina(ヴィクトリア レジーナ)、ヴィクトリア女王のことです。
ホームズの大学時代の知人レジナルド・マスグレイヴが依頼人。
マスグレイヴ家は英国でも歴史のある名家ですが、後継ぎが成人した折に行われる”マスグレイヴ家の儀式”が原因で執事とメイドが失踪します。
”マスグレイヴ家の儀式”を記した文書を、若きホームズが読み解いていきます。
ライゲイトの大地主/ライゲートの大地主(The Reigate Squire)
ライゲイトはライギットと読むのが正しいそうです。
ライギットはロンドンから南に30.5kmほどの場所で、郊外の住宅地が広がっています。
とある事件で体調を崩したホームズが、ワトスンと共に静養先としたのがライギットのヘイター大佐宅。
コナンと同じで、ホームズの行くところ事件あり!!
ヘイター大佐宅の近くにある、大地主カニンガム邸で御者が殺されます。
静養中のホームズが、静養もせずに事件を解決するお話。
かなり体を使った立ち回りもあるのですが、ホームズにはただゆっくりするよりも捜査の方が元気になるようです。
背中の曲がった男(The Crooked Man)
ワトスンの結婚後、夜中に訪ねてきたホームズは、例のごとくワトスンの近況について観察・推理します。
ワトスンに褒められたホームズは
Elementary.(初歩だよ)
コナン・ドイル著『背中の曲がった男』より
と答えるのですが、このセリフはシャーロック・ホームズを舞台化した際にウィリアム・ジレットが”Elementary, my dear Watson. (初歩だよ、ワトスン)”と改変して用いたものが有名になりました。
アメリカのドラマ『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』のタイトル”エレメンタリー”はウィリアム・ジレットが改変した”Elementary,my dear Watson.(初歩だよ、ワトソン)”から名づけられています。
ワトスンが女性という、ホームズものにしては珍しい男女のバディものです。
『背中の曲がった男』は、ジェイムズ・バークリー大佐がオルダーショットにて殺された事件です。
夫婦喧嘩の際バークリー夫人が言った「ディビッド」が大きなヒントとなっています。
『緋色の研究』にも登場した”Baker Street Irregulars”(ベイカー街遊撃隊/不正規隊)が活躍します。
ベイカー街遊撃隊はストリートチルドレンで構成されていて、ホームズが捜査の際にいろいろな役目を与えてお小遣い(賃金)をあげています。
街に居ても目立たない存在なので、警察やホームズたちでは無理な場所でも入り込み情報を得ることができました。
入院患者(The Resident Patient)
ワトスンとホームズが同居し始めて一年くらい経った頃の事件。
依頼人は医師のパーシー・トレヴェリアンで、ブレッシントンという男の融資を受けて開業します。
トレヴェリアンが不審な患者の訪問を受けた後、殺人事件が起きて……
ギリシャ語通訳(The Greek Interpreter )
『ギリシャ語通訳』の目玉は↓コチラ。
ホームズの兄、マイクロフト・ホームズとワトスンが初めて会う。
マイクロフトが登場するシーンはBBCシャーロックや、2019年に日本で放映された『シャーロック アントールドストーリーズ』(SHERLOCK:UNTOLD STORIES)でも再現されています。
マイクロフトに依頼されたのは、メラスというギリシャ語通訳が巻き込まれた事件でした。
捜査には直接関係ありませんが、日本の鎧兜(よろいかぶと)についての言及があります。
海軍条約文書/海軍条約文書事件(The Naval Treaty)
事件現場はウォーキング。ワトスンが新婚ほやほやの頃の事件。
ワトスンの友人で外務省の高官パーシー・フェルプスが依頼人です。
イギリスとイタリアで締結する予定の海軍条約文書の盗難に遭ったので解決してほしいというのですが……
最後の事件(The Final Problem)
ホームズの宿敵、モリアーティ登場。
タイトル通り、ホームズ最後の事件……となるはずだった事件です。
コナン・ドイル的にはこの作品でシリーズは終わらせるつもりだったのですが、次作を望む声があまりにも大きかったのです。
ブランクはありますが、長編『バスカヴィル家の犬』が執筆・出版され、しばらくホームズシリーズは続くことになります。
二回目の”最後の事件”は『シャーロック・ホームズ最後の挨拶』の『最後の挨拶』になりますが、これも最後じゃないんだよなあ(笑