日本文学の重鎮、夏目漱石(なつめそうせき)の道草を読了しました。
『こころ』などと比べるとマイナーな作品ですが、漱石ファンとしては読んでおくべき一冊でした。
『道草』は著作権が切れているので、無料でkindleで読めます。
手元に置いて読みたい派のあなたはこちらをどうぞ。
『道草』の基本情報
・1915年に朝日新聞に掲載された連載小説。
・夏目漱石は1867年(慶応3年)生まれ、1916年(大正5年)没の小説家・英文学者・俳人。近代日本を代表する文豪の一人。
・岩波文庫(kindle)の『道草』は414ページ。
・絶筆の『明暗』は未完のため、この『道草』が夏目漱石の完成された作品としては最後の作品となる。
明治の文豪!!というイメージですが、江戸時代に生まれてるんですね……
『道草』の概要
『道草』は漱石唯一の自伝的小説で、ぼかしてはありますがほぼ漱石の人生を描いてあります。
内容としてはロンドン帰りの大学教授、健三が金の無心(金をせびられる)と夫婦の愛憎が繰り返される、なかなかトホホなストーリー展開です。
金の無心について
- 縁が切れたと思っていた養父から金の無心
- 実姉からも金の無心
- 義父(妻の父)からも金の無心
という風に、家族親族から怒涛のように金寄越せ勢が健三に迫ります。
しかも借金じゃなくて、ただのタカリ……
明治・大正頃の習慣なのかもしれませんが、成功者になるのも楽じゃないんですね。
夫婦の愛憎について
健三と妻、御住(おすみ)はそう夫婦仲が悪いわけではないのです。
しかし夫がこれだけタカリに遭えば、妻としては面白くはないでしょう。
健三の恩義のある人に不義理はしたくないという理想と、御住のうちも無尽蔵にお金があるわけじゃないのよという現実(しかも第3子妊娠中)がぶつかっていく。
これって、現代社会でもよくある夫婦の意見の相違ですよね。
#読了#夏目漱石#道草
— ほしにゃー🐾灰色猫が本体 (@Karen10910) May 6, 2021
自伝的小説で、もうほぼほぼ実話。漱石のバイオグラフィーを辿る形でストーリーは進みます。
幼少期の複雑な家庭環境や生来の気質、現在の姿が夫婦の愛憎を軸に描かれ、時代は違えど人は同じような営みを送るのだなと人間夏目漱石を身近に感じる作品。
こりゃ胃も患うわ💦
ほしにゃー’s レビュー
男女間の機微
金だの夫婦仲だのなんだかドロドロしていて、どこが面白いの?と思われるかもしれません。
『道草』はやはり他の中・長編小説作品と比べると、地味な印象は拭えないというのがほしにゃーの感想です。
しかし夫婦の関係性に焦点を置くと、夫婦あるある・男女カップルあるあるな会話が多用されていて興味深い。
他人や社会への体面を重んじ、論理(ロジック)に全ての物事を当てはめようとする夫と、夫を慮(おもんぱか)りながらも現実を見据え、実は破綻している夫のロジックを知らぬうちに論破している妻。
あるあるすぎるwあ、ほしにゃー夫婦は違いますよ。
健三も御住も、互いを理解しよう・愛そうという気持ちは強いし歩み寄る努力もするのですが、いろいろなものが邪魔して思うようにいかないところもリアリティがありますね。
健三に欠けているもの
多くの漱石の小説では自分というものへの自信のなさ、引いては人間不信・自己不信が大きなテーマとなってます。
健三は『こころ』や『それから』『門』などの登場人物に似ているなと思うのですが、この自伝的小説である『道草』を読むうち、幼少時代の絶対的な愛情不足なのではないかと感じました。
実家→養子→実家と「大人の事情」で自分を振り回してきた保護者たちが、恥ずかしげもなく金をせびりにやってくる。
子どもは決して自分を裏切らない人(たち)に愛情をもって育てられ、その人(たち)を安全基地として愛着形成をしますが、果たして健三の安全基地はどこにあったのでしょうか。
『こころ』も併せて読むとわかりやすいです。