モダンタイムス/伊坂幸太郎

モダンタイムス

伊坂幸太郎著『モダンタイムス』をご紹介します。
2005年に出版された『魔王』の50年後の世界を描いた続編ですが、この『モダンタイムス』だけでもストーリーは理解できるようになっています。

ほしにゃー

でもやっぱり『魔王』を先に読むのがおすすめです。

『魔王』に登場する人物たちが『モダンタイムス』でも出てきますので、できれば『魔王』を読了後『モダンタイムス』という流れが良いでしょう。
逆に『魔王』は読んだけど『モダンタイムス』はどうしようかなという方、『魔王』の終わり方にモヤっとした私は『モダンタイムス』を読んで、多少なりとも溜飲が下がったことをコッソリお伝えしておきます(^^)

目次

『モダンタイムス』の基本情報

基本情報

・2008年に講談社より発行/546ページ(媒体によって変動します)
・上下巻として2冊で出ているものと、上下合本版として一冊にまとめたものがある。
・『魔王』の50年後の世界という設定
・『モダンタイムス』とほぼ同時期に書かれたのが『ゴールデンスランバー』

『モダンタイムス』の概要

『モダンタイムス』のあらすじ

システムエンジニアの渡辺拓海(わたなべたくみ)は恐妻家。
ある日、渡辺は先輩エンジニアの五反田正臣がとあるプロジェクトの途中で失踪したことを知らされる。

五反田が請け負っていたプロジェクトを引き継ぐことになり、後輩の大石倉之助と共に客先の会社へと向かう渡辺。
簡単そうに思われたそのプロジェクトが、全ての始まりだった。

ほしにゃー

作中には「伊坂幸太郎」ならぬ「井坂好太郎」という名の作家が登場しますよ。

モダンタイムスとは?

『モダンタイムス』と聞けば、古い映画に詳しい方ならすぐにチャールズ・チャップリンの映画を思い浮かべるでしょう。
1936年にアメリカで製作された映画『モダン・タイムス』は、チャップリンが主演の他に監督や脚本などを務めた喜劇映画です。

チャップリンの作る映画は喜劇でありながら社会風刺的であり、社会的弱者が苦難に弄ばれながらも誇りを失わないといった内容が多く見られます。
映画『モダン・タイムス』の冒頭では以下の言葉が字幕で出てきます。

モダン・タイムスとは産業社会とその中での個人の努力――幸福を追いもとめて戦う人間の物語である

コトバンクより引用
ほしにゃー

余談ですがチャップリンは日本びいきだったそうです。

前作『魔王』で、実在した日本の政治家犬養毅(いぬかいつよし)について語られる場面があります。
犬養毅は五.一五事件で一部の軍人たちに暗殺されますが、実はチャップリンもこの時期に来日しており、暗殺の対象に入っていたそうです(未遂で終わっています)。

犬養毅/『魔王』チャップリン/『モダンタイムス』の関連性、読み比べてみると面白いかも知れませんね。

大石内蔵助(おおいしくらのすけ)と『殿中でござる』

『モダンタイムス』では、渡辺の会社の後輩「大石倉之助」が出てきます。
歴史上の人物「大石内蔵助」と漢字違いで読みは同じ、という個性的な名前ですが元ネタ(?)の大石内蔵助の方について簡単にご紹介します。

大石内蔵助は江戸時代の武士で、播磨国赤穂藩(今の兵庫県赤穂市、相生市、上郡町付近)の筆頭家老を務めた人物です。
1701年、主君である浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)が江戸城の松の廊下にて、高家旗本の吉良上野介(きらこうずけのすけ)に対して刀を抜き切りつけたため、切腹させられて赤穂浅野家は断絶となります。

ほしにゃー

ろくに調べもせず、一方的な裁きだったので不満が残りました。
内蔵助は赤穂浅野家の再興を願い全力を尽くしますが、認められませんでした。

1702年12月14日早朝、大石内蔵助以下47名の赤穂浪士(あこうろうし)は吉良邸に押し入って、主君浅野内匠頭の敵討ちをしました。
この一連の出来事は、戦国時代終焉から100年近く経ち太平の世を享受していた人々に「武士的な忠義心」として好意的に受け止められ、『仮名手本忠臣蔵』(忠臣蔵)として人形浄瑠璃や歌舞伎の題材になります。

ほしにゃー

『忠臣蔵』は赤穂側の視点なので、吉良上野介は討たれても当然の悪役として描かれますが、真実はわかりません。

松の廊下で浅野内匠頭が吉良に斬りかかった時、居合わせた梶川頼照が内匠頭を羽交い絞めにしながら「殿中でござる!」(江戸城内ですよ、刀を抜くのは厳禁です)と止めに入る場面が有名です。

『危険思想とは常識を実行に移そうとする思想である』とは

作中で五反田正臣が言う『危険思想とは常識を実行に移そうとする思想である』は、芥川龍之介の著作『侏儒の言葉』という随筆集の中にあります。
侏儒(しゅじゅ)とは

1背丈が並外れて低い人。こびと。
2見識のない人をあざけっていう語。

goo辞書より

幻魔大戦とは

『モダンタイムス』の中で、渡辺拓海の直属の上司である加藤課長が『幻魔大戦』について触れるシーンがあります。
少々古い作品でもあり、ご存知でない方のために『幻魔大戦』についてもご紹介しておきます。

『幻魔大戦』(げんまたいせん)とは、地球を襲おうとする『幻魔』と『幻魔』から地球を守るために戦う人々との攻防を描いたSF作品です。
『幻魔大戦』には小説・漫画・映画があります。

・平井和正と石森正太郎の共作である漫画『幻魔大戦』
・平井和正が書いた小説『幻魔大戦』
・りんたろう(監督)/大友克洋(キャラデザイン)/古谷徹・原田知世など(声優)で1983年に公開された映画『幻魔大戦』

平井和正は『ウルフガイ』『8マン』などの代表作を持つ小説家/漫画家/脚本家です。
石森章太郎は『サイボーグ009』『仮面ライダー』『人造人間キカイダー』など多くのヒット作を世に出した漫画家、特撮原作者です。

映画『幻魔大戦』はりんたろうが監督を務めています。
りんたろう監督は『鉄腕アトム』『銀河鉄道999』など日本アニメの黎明期から活躍していた重鎮です。

また世界的に評価の高い漫画/映画『AKIRA』の作者、大友克之がキャラクターデザインを担当するなど、豪華なスタッフ・キャストで製作され映画自体も人気があります。

ジョン・レノン/イマジンとは

ジョン・レノンはイギリスの伝説的ロックバンドビートルズ(The Beatles)の立ち上げメンバーであり、ボーカル・ギターなどを担当。
『モダンタイムス』で言及される『イマジン』(1971年)はジョン・レノンが作詞作曲した作品です。発表当時、イギリス・アメリカ・日本のチャートで一位を獲るという快挙を成し遂げています。

ほしにゃー

ジョン・レノンの2番目の妻は、日本人で前衛芸術家の小野洋子(ヨーコ・オノ)さんです。

反戦活動をしたり『イマジン』で世界平和を訴えたジョン・レノンでしたが、マーク・チャップマンという男に銃で撃たれ殺害されています。
ちなみにこのマーク・チャップマンは、2021年現在も刑務所に入っているそうです。

ほしにゃー’s レビュー

ほしにゃー’sレビュー

『モダンタイムス』のキャッチフレーズは『検索から、監視が始まる』です。
このキャッチフレーズの通り、私たちがほぼ毎日お世話になっている『検索』が作品全体のキモとなっていて、読了後検索する時に『モダンタイムス』のことが脳裏をよぎるという副作用が保証されています(^^)

『モダンタイムス』は前作『魔王』とテーマとしては同じなのですが、関わる人数も多くなってコミカルなパートも増えていますし、『魔王』で張られた伏線を回収、また物語のカタルシスもあります。

主人公が”恐妻家”であるという設定が『殺し屋シリーズ』の兜と被っているので、伊坂先生ドМ疑惑が私の中で色濃くなりましたが実際はどうなんでしょう……

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