物語の時間軸としては『シャーロック・ホームズの思い出(回想)』の最後の短編である『最後の事件』から3年後になります。
出版順でいうと『バスカヴィル家の犬』の次がこの『シャーロック・ホームズの帰還』です。
何はともあれ、ホームズが帰ってきました!
『最後の事件』の真相と、その後のホームズの様子が明らかになる『空き家の冒険』がトップを飾る短編集『シャーロック・ホームズの帰還』をご紹介します。
新潮社延原謙訳はこちら↓
角川文庫駒月雅子訳はこちら↓
『シャーロック・ホームズの帰還』の基本情報
著者 | サー・アーサー・コナン・ドイル |
初出 | 1905(明治38)年 |
ジャンル | 推理小説(短編集) |
ページ数 | 362頁(新潮社kindle版) |
作品数 | 13 |
シリーズ中 | 6冊目(短編集としては3冊目) |
前作 | バスカヴィル家の犬(長編) |
次作 | 恐怖の谷(長編) |
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『シャーロック・ホームズの帰還』の簡単なあらすじと見どころ
角川文庫駒月訳/新潮社延原訳(原題)としています。和訳が同じ場合は一つです。
なお収録作品は角川文庫を基準にしており、新潮社版では『ノーウッドの建築士』『三人の学生』『スリー・クォーターの失踪』は『シャーロック・ホームズの叡智』に収録されています。
空き家の冒険(The Adventure of the Empty House)
ほしにゃーイチオシ作品です。ホームズがいなくなり、妻とも別れ、ワトスンは一人暮らしをしています。
世間ではロナルド・アデア殺人事件が取り沙汰されていて、ワトスンなりに推理をしてみるのですがやはり、ホームズのようにはいきません。
ホームズ帰還の演出がなんともホームズらしい!
そして再会したワトスンの喜びようがまた何とも可愛い。
3年間どうしていたのか聞きたがるワトスンは
「とても待てないよ。いますぐ聞きたい」
コナン・ドイル著『空き家の冒険』より
「今夜、同行してくれるなら」
「もちろんだとも。君の行くところならどこへでも」
……なんですかこの仲良し二人は(嬉)。
『最後の事件』後の真相が明らかになると同時に、ロナルド・アデア事件もホームズが解決します。
ノーウッドの建築業者/ノーウッドの建築士(The Adventure of the Norwood Builder)
『空き家の冒険』から数か月後、ワトスンとホームズは昔通りベーカー街221Bで一緒に暮らしています。
共同生活の再開にもホームズが嚙んでいてニヤリとしちゃいます。
ジョン・ヘクター・マクファーレンという青年が現れ、自分にかけられている殺人容疑を晴らしてほしいと頼んできます。
ノーウッドはロンドンの南にあります。
ホームズ作品にありがちですが、タイトルがヒントになっています。
踊る人形(The Dancing Men)
暗号文が使われる事件なのですが、初めて読んだ時にノートに書いて解こうとした思い出がありますw
依頼人はノーフォーク在住の名士、ヒルトン・キュービット氏。
キュービット氏の依頼は、子供の落書きにしか見えない踊る人形のような暗号文を解くことです。
この『踊る人形』の作中で、ホームズは160種類の暗号を分析した論文を発表しているという情報も書かれています。
孤独な自転車乗り(The Adventure of the Solitary Cyclist)
依頼人は音楽の家庭教師ヴァイオレット・スミス嬢。
既に婚約者がいるというのに、金持ちだけど高慢で強引なウッドリー、お金持ちで親切なカラザーズからも愛されるモテ期真っ最中のスミス嬢は自転車で通勤中にストーカーがいることに気づいて……
プライアリ・スクール/プライオリ学校(The Adventure of the Priory School)
依頼人はソーニークロフト・ハックスタブル博士。
博士は寄宿制の私立学校プライアリ・スクールの校長で、ホールダネス公爵の息子ソルタイア卿が失踪したためホームズに捜索を願います。
同じ日に居なくなったドイツ人教師ハイデッガーが事件に関係していると思われましたが……
珍しくホームズが多額の報酬を受け取る作品です。
ブラック・ピーター(The Adventure of Black Peter)
1895年。依頼人は若手警部スタンリー・ホプキンズ、被害者はブラック・ピーターと呼ばれるピーター・ケアリー船長。
被害者のそばにはP.Cというイニシャルが書かれた煙草入れ、J・H・Nのイニシャル、1883の数字が書かれた株取引リストがあり……
恐喝王ミルヴァートン/犯人は二人(The Adventure of Charles Augustus Milverton)
依頼人はエヴァ・ブラックウェル嬢。
シャーロック・ホームズにとっても私にとっても、人生において最初で最後の特異な体験であった。
コナン・ドイル著『恐喝王ミルヴァートン』より
とワトスンが書いているように、事件の経緯が他と違っています。
ホームズは偏屈で歯に衣着せぬ物言いをする男ですが、高潔で人情家な部分もちゃんと持っている……というのがよくわかる事件です。ワトスンはいつも通り友誼に厚い。
なお『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY 』のシーズン1エピソード20の『ブラックメール』はこの『恐喝王ミルヴァートンをベースにしています。
ちゃんと恐喝者の名前も”チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン”です。
『エレメンタリー』は同じ現代版シャーロック・ホームズの『BBCシャーロック』とは違う方向に原作をひねっているのですが、時々出てくる原作トリビアみたいなものを見つけるのも面白いですよね。
六つのナポレオン像/六つのナポレオン(The Adventure of the Six Napoleons)
複数のナポレオン像が壊される事件発生。
ナポレオン・ボナパルト(1769~1821)
フランスの革命家で1791年終身統領、1804年に国民投票によってフランス皇帝となる。
ロシア遠征後失脚するが、ナポレオンの後即位したルイ18世政権が脆弱だったので復帰を狙う。ワーテルローの戦いに敗れ、セント・ヘレナ島へ流刑になる。
ナポレオンの最期の言葉が、離婚した妻ジョゼフィーヌの名前なのは世界史の授業で印象的でした。ちなみに先に亡くなったジョゼフィーヌの最期の言葉にもナポレオンが入っています。
ちなみにナポレオンの人となりは事件と全く関係ないですw
三人の学生(The Adventure of the Three Students)
1895年の事件。とある大学街で、初期イギリスの勅許状に関して調べものをしていたホームズとワトスン。
知人のヒルトン・ソームズが、勤めているセント・ルーク・カレッジで起きた事件を秘密裏に解決してほしいという依頼を受けます。
フォーテスキュー奨学金の試験に使われる問題用紙を、何者かが見てしまったらしい状況。
『シャーロック・ホームズの思い出』に収録されている『海軍条約文書事件』と似てますね。
金縁の鼻眼鏡(The Adventure of the Golden Pince-Nez)
若きスタンリー・ホプキンズ警部が依頼人。現場はヨックスリー・オールド・プレイス屋敷。
博識な学者コーラム教授が雇っていたケンブリッジ大出身のウィロビー・スミスという青年が被害者で、死の間際に「先生、あの女です」と言い残して死亡してしまいます。
ウィロビーの右手には金縁の鼻眼鏡が握られていました。
スリー・クォーターの失踪(The Adventure of the Missing Three-Quarter)
ホームズ、スポーツに興味がない件。
完全無欠で何でも知っていそうなイメージですが、『緋色の研究』にもあるようにホームズの知識は実はめっちゃ偏ってるんですよね。
しかし「右ウィングのスリー・クォーター……選手」という文言が全く理解できないというのもどうなんだろう。
ラグビーがよくわからない私でもラグビーかアメフトですかね、とおぼろげな想像はつくのですが。
それはさておき、依頼人はシリル・オーヴァートンで、失踪してしまったチームメイトのゴドフリー・ストーントンを探してほしいという。
ストーントンの友人、アームストロング博士がなかなか手ごわくて面白いです。
アビイ屋敷/僧坊荘園(The Adventure of the Abbey Grange)
依頼人はスタンリー・ホプキンズ警部。この事件以前に7回ホプキンズ警部からの依頼を受けたとあります。
被害者は資産家ユースタス・ブラックンストール。
殺人を正当化するつもりはありませんが、被害者は胸糞案件です。
第二のしみ/第二の汚点(The Adventure of the Second Stain)
なんとホームズが探偵業を引退し、サセックス・ダウンズで研究と養蜂に明け暮れているという衝撃の事態が語られます。
シャーロック・ホームズシリーズは”ワトスンがホームズの事件の記録として書いた”という形式を取っているので、”リアルタイム”ではなく”過去”のことなのはいつも通りなのですが。
依頼人は英国首相経験を持つベリンジャー卿とヨーロッパ担当大臣トリローニー・ホープ氏。
ヨーロッパ情勢を揺るがしかねない極秘文書が盗まれた事件です。
極秘文書は盗まれがちw