有栖川有栖著の火村英生シリーズ(作家アリスシリーズ)8作目、『朱色(しゅいろ)の研究』をご紹介します。
ドラマの中で映像化された作品です。
著者有栖川有栖と火村英生シリーズについてのまとめは『火村英生に捧げる犯罪』のページにありますので、よろしければどうぞ。
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『朱色の研究』の基本情報
著者 | 有栖川有栖(ありすがわありす) |
初出 | 1997年 |
ジャンル | 推理小説(長編) |
ページ数 | 375頁(kindle) |
『朱色の研究』のあらすじ(ネタバレなし)
- 依頼者は、火村のゼミ生である貴島朱美(きじまあけみ)
- 依頼された事件は、二年前に起きた放火殺人事件(未解決)
- 大きく分けて(1)アリスが住むマンション近くで起きた事件と、(2)貴島朱美に依頼された事件のパートで構成
ドラマの中では、山本美月さんが貴島朱美役でした。
『朱色の研究』の見どころ
複雑に絡み合う事件と巧妙なトリック
複数の事件が登場するのですが、互いの関わり方がよく練られていて読者を飽きさせません。
また犯人が仕掛けたトリックの部分も凝っていて、しかし読者が推理しうる範囲にあるので推理しながら読む楽しみもあります。
事件勃発→捜査→推理→物証探し/犯人特定→逮捕
が一般的な事件解決の流れですが、少しづつ事実が明らかになる様子・論理的思考によって犯人特定に至る過程が緻密で美しいのもこの作者の特徴です。
まさしく”朱色”の研究
推理小説がお好きな方は、タイトルを見てシャーロック・ホームズシリーズ1作目『緋色の研究』を想起されたことでしょう。
あとがきにおいて、著者もタイトルは『緋色の研究』にちなんだと述べています。
というのはさておき(おくんかい)、『朱色の研究』はタイトル通り”朱色”についての叙述がたくさん散りばめられた作品です。
事件解明の進捗と共にテーマである”朱色”・関係する人間たちの心のありようがマッチしていき、推理小説でありながら文学小説のような体(てい)を成しています。
著者:有栖川有栖は純然たる推理小説家ですが、人間の生き方について問う文学的な要素も強めの作家ですので、推理小説と文学の二つの要素を一度に楽しめる著作になっています。
個人的には、推理小説って文学要素があるから面白いんだと思う……
火村英生の謎
探偵役の火村英生は、なかなかの闇を抱えた人物です。
その闇については2022現在でもはっきりと明かされていませんが、『朱色の研究』では闇にまつわる事実が垣間見える部分があります。
何故、大学准教授である火村は犯罪と向き合い犯罪者逮捕に情熱を燃やすのか。
会話の中で語られる火村の心のうちを覗くのも、火村英生シリーズの醍醐味です。
すさみ町観光巡り/イノブータンランド/恋人岬
和歌山県のすさみ町付近が事件現場ということで、火村とアリスがドライブする観光名所の地図も載せておきます。
『朱色の研究』に出てくる作品
『朱色の研究』には、たくさんの有名な人物や作品が登場します。
ご存知なくても問題なく楽しめますが、知っているとより分かりやすいですし、大きな声では言えませんが時には事件のヒントも隠されています。
全てを網羅することはできませんが、いくつか載せておきますので参考までに。
シャーロック・ホームズ
イギリスの小説家コナン・ドイルが創り出した、世界一有名な探偵の名前(架空のキャラクター)。
シャーロック・ホームズシリーズについては記事がありますので、宜しければどうぞ。
ジョン・レノン
英国リヴァプール出身、1960~1970年代に活動し、20世紀を代表するバンド『ザ・ビートルズ』のメンバー。
長髪に丸眼鏡の印象が強い。
エリッヒ(エーリヒ)・フロム
1900年生まれ、ユダヤ系ドイツ人の社会心理学・哲学者。フロイト左派。
ナチズムに走ったドイツを考察し、自由とは何かを考えた著書『自由からの逃走』(1941年)、人は何故悪に走るのかを考察した『悪について』(1965年)などの書籍を執筆した。
ジークムント・フロイト
1856年生まれ、ユダヤ系オーストリア人の心理学者・精神科医。神経病学・精神分析の創始者。
フロイドは英語読み。
フリードリヒ・ニーチェ
1844年生まれ、ドイツ・プロイセン王国出身。実存主義の哲学者・詩人。
アンチキリスト・ニヒリズム・永劫回帰など哲学だけでなく現代思想に大きな影響を与えた。
ミシェル・フーコー
1926年生まれ、フランスの哲学者。
精神医学、臨床研究。代表作は『狂気の歴史』『監獄の誕生』『性の歴史』など。
若きウェルテルの悩み
ドイツの文豪ゲーテ(1749ー1832年)の著作。
ゲーテ自身が体験した悲劇的な恋の顛末を基に書かれた恋愛小説。
補陀落渡海記(ふだらくとかいき)
井上靖の著作。
観音浄土をめざして、船で海に出て生きたままの往生を願う”渡海上人”をテーマにした作品。
ムーンリバー
映画『ティファニーで朝食を』(1961年)の劇中歌で、主演のオードリー・ヘップバーンが歌った。
ヘンリー・マンシーニが作曲。
『ティファニーで朝食を』はアメリカの小説家トルーマン・カポーティが原作。
三島由紀夫『潮騒』
三重県鳥羽市にある、伊勢湾の歌島が舞台の恋愛小説。
三島作品の中でも人気が高く、何度も映像化されている。