今回は浅田次郎著『蒼穹の昴(そうきゅうのすばる)』をご紹介します。
文庫で4巻1500頁強と長編ですが、読みやすいのでおすすめです。
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『蒼穹の昴』の基本情報
・1996年講談社より発行/ハードカバー上下巻766頁
・2021年現在、『蒼穹の昴シリーズ』として続編が第六部まで出ている
・2010年日中共同制作でテレビドラマが製作された
・著者の浅田次郎は1951年生まれの小説家/陸上自衛隊→アパレル業界→雑誌ライター→小説家へ
・1997年『鉄道員(ぽっぽや)』で直木賞受賞
・2000年『壬生義士伝』で柴田錬三郎賞受賞
『蒼穹の昴』の概要
『蒼穹の昴』のあらすじ
清の第11代皇帝光緒帝(こうしょてい/こうちょてい)の治世である1886(明治19年)~1907(明治40年)が舞台。
主人公は李春雲(春児)という貧しい少年と、地方の有力者の息子である梁文秀。
二人とも架空の人物です。
不思議な占い師の言葉に導かれた春児と文秀は、それぞれ西太后(せいたいごう)側と光緒帝側に別れて激動の清朝末期を生きていきます。
二人の視点とは別に、西太后や李鴻章(りこうしょう)など複数の人物の視点を経て、いろんな角度から清末期の様子が描かれます。
21年の間に起こる様々な歴史的事件が、テンポよく進んでいきます。
1889年 – 張之洞、湖広総督となり洋務運動を進める。
1894年 – 日清戦争。清、朝鮮の独立を承認。台湾と澎湖諸島が日本に割譲される。
1898年 – 戊戌の変法
1899年 – アメリカのジョン・ヘイ国務長官、門戸開放を各国に通達。
1900年 – 義和団事変
Wikipedia「中国の歴史年表」より
長く続いてきた立憲君主制からの脱却がテーマの一つです。
日本の伊藤博文公や、日本人の新聞記者(架空の人物)も登場します。
西太后(せいたいごう)とは
日本では西太后という呼び方が一般的ですが、中国では「慈禧太后(じきたいこう)」「老仏爺」と呼びます。
清朝第9代皇帝の咸豊帝(かんぽうてい)の側妃で、第10代皇帝同治帝(どうちてい)の母。
息子である同治帝の後見として垂簾聴政(すいれんちょうせい/摂政政治のこと)を行う。
同治帝崩御の後は、妹の子である載湉(さいてん)を光緒帝として即位させ、姪を皇后に据えて垂簾聴政を続けます。
光緒帝の親政により一旦は表舞台から身を引きますが、変法運動(政治や行政の改革を訴える動き)に賛同した光緒帝への不満が広まっていったことから改革派(光緒帝派)と保守派(西太后派)の政争が勃発。
西太后は光緒帝を幽閉し、再び垂簾聴政を始めます。
日本の幕末/明治維新と重なる部分が多いですよね。
義和団事件(義和団事変)で都を逃れますが、李鴻章らの働きによって政治の中枢へ舞い戻ります。
光緒帝が亡くなった次の日に亡くなったことや、光緒帝の死因が毒殺であることから光緒帝暗殺犯だという説がありますが、真偽のほどはわかりません。
光緒帝と西太后亡き後、清朝第12代皇帝として愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ)が即位します。
愛新覚羅溥儀/宣統帝は清朝最後の皇帝で「ラストエンペラー」として知られています。
ちなみに「ファーストエンペラー」は、紀元前221年に初めて中国統一した始皇帝です。
ほしにゃー’s レビュー
近代の歴史ってあまり試験に出ない(少なくとも私の受験時は)ので、通り一遍の暗記で終わってました……
あと満州族独特の辮髪(べんぱつ)が苦手ってのも大きかった気がする。辮髪はラーメンマンみたいな髪型のこと。
幕末ですよ。日本の幕末にすごく似てる。
立憲君主制でやってきた中国が、時代の流れに押し流されて大きく変わる転換点が清朝末期です。
西太后。日本人の多くは、メディアや映画『西太后』によるイメージが強いのではないかと思います。
かくいう私も、映画『西太后』のあまりの残虐さにおののいたものです(父さん、子供に見せる映画は選ぼうよ)。
『蒼穹の昴』を読むと、西太后の捉え方が多面的になります。
中国という大きな市場・資源を植民地化するのに、列強諸国にとって西太后という女性は都合がよかったのだろうなというのは想像に難くありません。
西太后が実際どのような人物だったのかはわかりませんが、『悪女』に仕立て上げるのは簡単だったでしょう。
それと李鴻章という人物も気になりました。
日清戦争・下関条約の人……という貧相な知識でしたが、こんなに苦労人だったのですね。映画にもちょいちょい登場する人なので、人物像が見えてすっきりしました。
歴史を楽しく学ぶというだけでなく、春児と文秀の生きざまにも引き込まれる『蒼穹の昴』を読んでみませんか?