それから/夏目漱石

それから

夏目漱石の『それから』をご紹介します。
前期三部作の2番目にあたり、『三四郎』→『それから』→『門』となっています。
『それから』は著作権が切れているので、無料でkindleで読めます。

手元に置きたい派のあなたはこちらをどうぞ。

目次

『それから』の基本情報

基本情報

・1910年春陽堂より発行/363ページ(媒体によって変動します)
・夏目漱石の前期三部作の2作目
・1985年映画化された。森田芳光監督/松田優作/藤谷美和子/小林薫など
・2017年舞台化された。

『それから』の概要

『それから』の登場人物

長井代助(ながいだいすけ)
主人公。帝国大学卒業後、定職につかず親から生活費をもらいつつ高等遊民になって暮らしている。30歳くらい。

高等遊民】世俗的な労苦を嫌い、定職につかないで自由気ままに暮らしている人。 明治末期から昭和初期の語。

コトバンクより

平岡常次郎(ひらおかつねじろう)
代助の友人で三千代の夫。銀行に勤めていたが、横領事件の後始末をする形で退職し代助に職を紹介してもらいにやってくる。
平岡三千代(ひらおかみちよ)
常次郎の妻で、代助とは結婚前からの友人。死産して後、心臓に病を抱えている。
門野(かどの)
代助の家の書生。
長井梅子(ながいうめこ)
代助の兄嫁。代助と気心が知れていて何かと面倒をみてくれる。

『それから』のあらすじ

高等遊民である代助は、実家から出て自分の住まいで生活しています。
コンサートに行ったり読書をしたりと優雅な暮らしをしている代助のところに、京阪に住んでいた旧友の平岡が訪ねてきて、就職の口を斡旋してくれないかと頼んできます。

ほしにゃー

平岡とは仲が良かった代助ですが、このところ疎遠になっていました。

平岡の妻、三千代は平岡、代助の学友であった菅沼(すがぬま)という故人の妹です。
代助は三千代にほのかな恋心を抱いていたようですが、職もなく持つつもりもなかった自分は三千代にふさわしくないと諦め、平岡と三千代の結婚を薦めたという経緯がありました。

物理的に離れていた時は良かったのですが、久しぶりに会った三千代に代助は……

ほしにゃー’s レビュー

ほしにゃー’sレビュー

『三四郎』からの続き、それから……

はい。『それから』は不倫の話です(いきなりド直球)。ただ作中ではプラトニックな関係です。
前作『三四郎』は、主人公である小川三四郎が先輩野々宮の妹の友人(ややこしい)である美禰子に恋する話でしたが、今回ご紹介している『それから』は『三四郎』の続きだろうなというストーリーになっています。

『三四郎』と『それから』は別の話として完結していますし、登場人物や人間関係の設定も多少違います。
しかしエッセンスとしてはほぼ同じで、主人公とその想い人の関係が『三四郎』より進んだ状態になるのが『それから』だという印象です。

ほしにゃー

『それから』の主人公、代助はナルシスト臭がスゴイですが……

当時の日本では「姦通罪」という罪があり、不倫をすると法によって罰せられる危険がありました。
それも女性側に不利な法律だったので、人妻である三千代が代助との恋に走るのはかなりの覚悟が要ります。

三千代と代助の恋の再燃/『谷間の百合』

代助と、平岡の妻である三千代。
二人が道ならぬ恋に足を踏み入れる瞬間の描写は『それから』で最も有名なシーンかと思います。

代助がスズラン(原文では”リリー・オフ・ゼ・ヷレー”)を漬けていた鉢の水を、三千代が飲む場面。
スズランは毒があるので、スズランを漬けていた水を飲むのは危険なのですがそれはさておき。

ほしにゃー

むしろ、毒を飲む=不倫のメタファーかもしれませんね

リリー・オフ・ゼ・ヷレーは”Lily of the valley”、つまり『谷間の百合』と訳されます。
『谷間の百合』といえば、フランスの作家バルザックの小説のタイトルを思い浮かべる方もおられるでしょう。

ただスズランと書けばいいものを、わざわざリリー・オフ・ゼ・ヷレーと2回も表記されているのは、帝国大学出身という代助の知的な部分を表現したかったのかも知れませんが……
その後、三千代が持ってきた百合の花(代助と三千代の想い出の花)をスズランと同じ鉢に生けたのも意味深です。

バルザックの『谷間の百合』は、純真な青年フェリックスとモルソーフ伯爵夫人のプラトニックな不倫(この表現は矛盾していますかね)の話です。
伯爵夫人はフェリックスに社交界での立ち居振る舞いなどを教え送り出しますが、いざフェリックスに恋人ができると嫉妬してしまうというストーリー。

ほしにゃー

『谷間の百合』と『それから』は性別が入れ替わっているだけですよね。

色と花の使い方が凄いので要チェック。

『それから』にはたくさんの花が登場します。
主人公代助は自分で花を生けるくらいの花好きですし、代助と三千代の恋の再燃の場面ではスズランと百合が重要な意味を持たされています。

小説の冒頭では、”赤ん坊の頭ほどもある”八重の椿、平岡が訪ねてきた時に庭に咲いていた、大切にしている鉢植えのアマランス(アマリリス)などなど。
また花の色だけでなく、代助が好む穏やかな青や緑とラストシーンを彩る『』の対比。

『それから』では、花と色によって登場人物たちの気持ちを見事に描写しているのです。

『三四郎』と『それから』のヒロインたち

『三四郎』のヒロイン美禰子は、モデルが平塚雷鳥ということで『強い女』というイメージでした。
『それから』のヒロイン三千子は心臓が悪いこともありますが、美禰子に比べれば大人しい性格のように思えます。

しかし心を決めた後の三千代は、代助もタジタジになるくらいの潔さというか強さを見せます。
対して美禰子は強くありながらも、心に迷いを持ち続ける弱さを垣間見せるシーンがありました。

ほしにゃー

漱石の書くヒロインって、基本的に強いですよね。

二人のヒロインを比べながら読むのもいいかも知れません。

映画『それから』もおすすめ!

ほしにゃーは松田優作の映画やドラマを殆ど見ていますが、映画『それから』の松田優作が一番好きかも。というくらい素晴らしい演技なので是非チェックしてみてください。

例の鉢の水を飲むシーンも、実際に映像で見るとなかなかインパクトがあります。
そして平岡常次郎役の小林薫がいい感じに嫌なヤツでピッタリ。

小説の設定では151cmくらいの代助を、183cmもある松田優作が演じてるのも面白いですよね。

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