「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」
サンライズ製作アニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』より
という有名な決め台詞をご存知ですか?
アニメ『コードギアス反逆のルルーシュ』ルルーシュ・ランペルージの言葉ですが、これ実はレイモンド・チャンドラーの小説の主人公、フィリップ・マーロウが元ネタになっています。
Don’t shoot it at people, unless you get to be a better shot. Remember?
レイモンド・チャンドラー『大いなる眠り』より
原文は「もっと上手くなるまで撃つな。いいな?」的な意味。
これは射撃が下手なクセに銃を扱う女性に向かって、マーロウがたしなめているニュアンスです。
ルルーシュのセリフはかなり意訳ですが、確かにカッコいいですね。
ということで、カッコいい決め台詞が散りばめられた『大いなる眠り』をご紹介します!
『大いなる眠り』の基本情報
著者 | レイモンド・チャンドラー |
ジャンル | ハードボイルド小説 |
初出 | 1939(昭和14)年 |
ページ数 | 340頁(kindle) |
翻訳者 | 双葉十三郎(東京創元社)/村上春樹(早川書房) |
シリーズ中 | 1作目(長編) |
レイモンド・チャンドラーとは
アメリカの小説家(1888年-1959年)。ハードボイルド小説の源流の一人。
ハードボイルドとは主人公の心情を描写するのではなく、簡潔な言葉や行動(表に現れている部分)を客観的に淡々と記述する方法です。
ヘミングウェイの作品もハードボイルド小説です。
ハードボイルド小説というと、主にハードボイルド探偵小説を指すことが多いです。
フィリップ・マーロウとは
チャンドラーの小説の主人公。
- ロスアンゼルスで探偵業を営んでいる
- アメリカ人男性
- 身長ほぼ187cm/体重ほぼ86.2kg
- 検事局の捜査官をしていたが、上司の言うことを聞かないのでクビになった
- 探偵としての報酬は一日25ドル+必要経費
マーロウものには7つの長編と、中・短編が多数あります。
※長編については途中までチャンドラーが書き、残りをロバート・B・パーカーが書いた長編を合わせると8つになります。
『大いなる眠り』の映画化
『大いなる眠り』は映画化されています。
1946年、監督ハワード・ホークス/主演ハンフリー・ボガート/ローレン・バコールの映画は、邦題『三つ数えろ』として公開されました。
ボガートがカッコいいんですよ……ちなみに「撃っていいのは~」のセリフは、『三つ数えろ』には出てきません。
1978年公開された映画は監督マイケル・ウィナー、主演ロバート・ミッチャムとサラ・マイルズ。
こちらは邦題『大いなる眠り』となっています。
『大いなる眠り』のあらすじ(ネタバレなし)
大富豪からの依頼を受ける
主人公フィリップ・マーロウ(33歳)は、大富豪ガイ・スターンウッド将軍の邸宅を訪ねます。
スターンウッド将軍には二人の娘がいて、どちらも問題児。
- 姉ヴィヴィアンは気が強く非情、3回結婚
- 妹カーメンは金遣いも異性関係もお花畑系
なかなかクセの強い姉妹ですねw
カーメンが賭博場で負けたお金を支払うよう手紙が来ており、
手紙の送り主アーサー・グィン・ガイガーと上手く話しをつける
というのがマーロウの請け負った依頼です。
姉ヴィヴィアン案件
ヴィヴィアンには短い期間だけ結婚生活を送った夫ラスティ・リーガンがいました(現在行方不明)。
リーガンはならず者ですが、ヴィヴィアンの父スターンウッド将軍はリーガンのことを大層気に入っていたようです。
当初マーロウが請け負ったのはカーメンの件ですが、失踪中のリーガンについても関わっていくことになります。
スターンウッド家の執事ノリス推し!!
『大いなる眠り』の見どころ
1930年代の空気感
『大いなる眠り』は1939年に発表されたもので、アメリカ1930年代の空気感を色濃く感じることができます。
アメリカでは1920~1933年の間、法によって酒の製造・販売・輸送が禁止されました。
実際は闇でアルコール市場が繁盛し、映画『アンタッチャブル』の悪役アル・カポネのようなギャングたちも多額の儲けを得ていました。
『大いなる眠り』では禁酒法が既に廃止されていますが、スターンウッド将軍の姉娘ヴィヴィアンの3番目の夫であるリーガンは禁酒法時代に酒を扱う商売をしていたという設定です。
1930年代のアメリカというと、男性はスーツに中折れ帽(センタークリース)を被るのが普通でした。
復活してほしいファッション!!!(心の叫び)
当然マーロウもスーツに中折れ帽という恰好です。いいよね!!(心の叫び)
また、『大いなる眠り』に出てくる車を挙げると
- パッカード・コンバーティブル
- クーペ
- ビュイック
など!
いいんですよ~この頃のアメ車カッコいいんだよなあ……(しみじみ)
ファッションや車の他にも、シガレットケースや葉巻、ウィスキーといった小道具もいちいちおしゃれです。
フィリップ・マーロウの生き方
『大いなる眠り』は探偵小説なので犯罪事件が起こり、調査して解決するという一連の流れがあります。
しかし謎解きそのものよりも、主人公フィリップ・マーロウの事件への関わり方、生き方を楽しむ部分が大きいように感じます。
文学的探偵小説とでも言いましょうか……
ハードボイルド小説でもあるので文章は淡々としているのですが、短く気の利いた言い回しの裏にある秘めた心は驚くほど優しく、タフで高潔。
貧しさや暴力、人の心の醜さ・弱さの中に生きながらも、ぶれない軸を持っている男なのです。
実は『大いなる眠り』の中の事件で、一つは解決しないまま終わってるんですよねw
余談ですが作中でマーロウが、シュヴァリエ・オーデュボンの『アメリカの鳥類』を探しているふりをするシーンがあります。
伊坂幸太郎著『オーデュボンの祈り』と奇妙なところで繋がりがあって面白い。