シャーロック・ホームズシリーズの、4つの長編のうちの最後を飾るのは『恐怖の谷』です。
「密室の王者」と呼ばれるアメリカの推理小説作家ディスクン・カーも「ドイルの長中編作品の中でベスト」と推している作品です。
最後にふさわしい面白さです!
読みやすい文体の駒月雅子訳(角川文庫)と、伝統的でホームズシリーズの空気感に親しみやすい延原謙訳(新潮文庫)↓
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『恐怖の谷』の基本情報
著者 | サー・アーサー・コナン・ドイル |
初出 | 1914(大正3)年 |
ジャンル | 推理小説 |
ページ数 | 241頁(新潮社kindle版) |
シリーズ中 | 7冊目(長編としては4冊目) |
前作 | シャーロック・ホームズの帰還(短編集) |
次作 | シャーロック・ホームズ最後の挨拶(短編集) |
依頼人 | アレック・マクドナルド警部 |
依頼内容 | ジョン・ダグラス氏殺人事件の解明 |
現場 | サセックス州バールストン |
推理小説用語のバールストン・ギャンビット(先攻法)はこの『恐怖の谷』の事件現場の名前からつけられています。
バールストン・ギャンビットの意味はネタバレになってしまうので、ご存知ない方は読了後にググることをおすすめします。
なお、バールストンという地名は架空のものです。
『恐怖の谷』の見どころ
現場は、ほぼクローズド・サークル
クローズド・サークルとは
ミステリ用語。何らかの事情で外界との行き来が断たれた状況のこと。
絶海の孤島や猛吹雪に閉じ込められたロッジなど。
『恐怖の谷』の事件現場となったバールストン屋敷は隣家とも離れた場所にあり、屋敷の周りを堀で囲まれています。
堀には跳ね橋があり、事件が起きた時跳ね橋は上がっていたので、クローズド・サークルの状態となっていました。
クローズド・サークルの謎を解くのってワクワクしませんか?
2部の大活劇の面白さ
ホームズシリーズの長編は2部構成が多く、1部で事件を解明した後に2部で事件の背景にある物語が明らかになります。
『恐怖の谷』は1部もさることながら、2部が大変魅力的で読みごたえがあるストーリーになっています。
2部の舞台はアメリカのペンシルベニア州ヴァーミッサ渓谷(架空の地名)です。
2部ではある秘密結社が登場します。
秘密結社というとフリーメイソンやイルミナティなどが有名で、主に「宗教系」と「政治系」に分けられますがどちらでもない結社もあります。
何が秘密かというと、①結社の存在自体・構成員が秘密 ②結社の目的・活動内容などが秘密。
結社の構成員同士の結束が固く、時には悪事を働いている場合もあります。
作中に、ピンカートン探偵社(Pinkerton National Detective Agency)という単語が出てきますのでご紹介します。
ピンカートン探偵社は、大統領になる前のアブラハム・リンカーン暗殺事件を阻止したことで有名なアラン・ピンカートンが仲間と共に立ち上げた北西警察事務所(North-Western Police Agency)が基になっています。
ピンカートン探偵社に在籍していたジェームズ・マクパーラン、そしてマクパーランが解決した事件が『恐怖の谷』のモデルとなっています。
詳しく書くとネタバレになってしまうので、気になる方は読了後ググっていただけると幸いです。
ピンカートン探偵社は映画『明日に向かって撃て!』などにも登場しますよね
『恐怖の谷』のあらすじ(ネタバレなし)
ポーロックとモリアーティ教授
ベーカー街221Bにおいての、ホームズとワトスンの会話から物語は始まります。
いつもの通り、わが道を行くホームズと我慢強く紳士なワトスンに出会えます。
郵便物の中にフレッド・ポーロックの筆跡をみつけたホームズは、ポーロック繋がりでモリアーティ教授についての評を述べます。
モリアーティ教授は短編集『シャーロック・ホームズの思い出(回想)』の中にある『最後の事件』で初登場します。
時系列的には『恐怖の谷』→『最後の事件』となります。
二人がポーロックの寄越した手紙について論じていると、スコットランドヤードのアレック・マクドナルド警部がやってきます。
そして奇しくもホームズとワトスンが話していた事件を依頼されることになるのです。
バールストンの悲劇
事件が起きた状況が説明されます。
- バールストンはサセックス州北部(架空の設定です)で別荘が多い土地である
- バールストン屋敷は歴史が古く内堀に囲まれている
- ダグラス家にはジョン・ダグラスとその妻の二人暮らし+執事エイムズ、アレン夫人他6人の召使
- ジョン・ダグラスはアメリカで成功した男でありイギリス生まれの妻とは20歳ほど年齢差がある
- 事件の折、ダグラス夫妻と仲良しのセシル・ジェイムズ・パーカーが居合わせた
- 死体の胸に、重心を1フィートほど切り取った猟銃が乗せられていた
- 被害者の顔は原型を留めていない
- 事件当時、堀を渡る跳ね橋は降りていた
- 窓枠に靴底の後のようについた血痕
- V.V.341という文字列が書かれたカード、ハンマーが落ちていた
- 結婚指輪が盗られていた
恐怖の谷
ダグラス夫人によると、被害者ジョン・ダグラスは
『わしは恐怖の谷にいたことがある。まだそこからぬけ出ていないのだ』
コナン・ドイル著『恐怖の谷』より
と言っていました。作品のタイトルにもなっている『恐怖の谷』が事件解決のカギとなります。